本研究の目的は、乳癌患者のQOL向上のために、看護師を中心とする病棟・外来の医療スタッフに対する健康心理学的教育を行い、その場限りの対症療法的な援助にとどまることなく、患者に対する生物・心理・社会的な全人的な援助ができるような視点を身につけていくプロセスを検討することである。特に患者理解に関しては、人生や病気体験についての患者の「語り(narrative)」という視点の獲得を目指す。 研究の初年度にあたる平成15年には、研究協力病院の患者を対象とした質問紙調査や個人面接調査などを実施したが、今年度はその資料を分析し、結果の一部については第28回国際心理学会(北京)および第17回日本健康心理学会において報告した。乳癌の経験は、個別の切り離された体験ではなく個人の人生に関するnarrativeの一部であることや、病気体験の受け止め方は、Locus of ControlやSense of Coherenceなどと関連することが見出された。また、初年度から現在まで継続している乳癌手術前後の不安感などの追跡調査に関しては、その一部について今年度の第6回日本ヒューマンケア心理学会でスタッフとの連名発表を行い、スタッフの健康心理学的視点養成の一環としている。 さらに、研究者が協力病院の乳腺疾患に関するカンファレンスに毎月参加し、実際の事例への介入に関して健康心理学的視点からの助言指導を行う中で、上記のような患者を対象とした調査研究の成果や視点を具体的・継続的にスタッフにフィードバックすることにより、スタッフには健康心理学的な視点と介入技法に関する蓄積がなされてきた。また、このような今年度の助言指導の実績をベースに、次年度早々には、健康心理学的な介入の知識と工夫をパンフレットとしてまとめ、スタッフが手引きとしていつでも利用できるようにすることを計画している。
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