本研究の目的は、乳癌患者のQOL向上のために、看護師を中心とする病棟・外来の医療スタッフに対する健康心理学的教育を行い、その場限りの対症療法的な援助にとどまることなく、患者に対する生物・心理・社会的な理解のもとに全人的な援助ができるような視点を身につけていくプロセスを援助し、検討することであった。特に患者理解に関しては、人生や病気体験についての患者の「語り(narrative)」という視点の獲得を目指すこととした。 平成15年度から17年度までの3年間に、大別すると4種類の調査研究や実践を企画した。第一に、患者が抱える心理的問題に関するスタッフの理解を深めるため、乳癌手術後の患者における不安についての継続的調査を行った。その際、スタッフがその共同研究者となることで、さらに理解を深めることができた。第二に、患者会のメンバーを対象として、QOLやhealth locus of control、さらに病気体験に関する自由記述等についての質問紙調査を行うことにより、患者のさまざまな属性やパーソナリティ特性等とQOLとの関係や病気体験との関係についての知見を得ることができた。第三に、患者18名に行った個別面接を通して、乳癌の経験は、個別の切り離された体験ではなく人生に関する物語の一部であることなどを見出した。第四に、これら3つの調査で得た知見をたえずスタッフにフィードバックしながら、心理学的視点と介入技法に関する集中的な勉強会の開催や事例検討への参加・助言を継続した。それにより、スタッフの健康心理学的な患者理解がしだいに定着し、乳癌特有の長期にわたる外来通院における患者の不安を解消するために、患者グループを実施する等の動きへとつながっている。
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