研究概要 |
本研究の目的は,非注意刺激(課題とは直接関係がなく無視するように教示された刺激)の意味的処理が排除可能な実験状況を探索することで,選択的注意のメカニズムを解明することであった.この目的のために,画面周辺に呈示される色名単語(非注意刺激)を無視しながら,画面中央に呈示される色刺激(ターゲット)の色名を報告するというストループ様課題を用いた実験が行われた.非注意刺激とターゲットの意味的関係が操作され,適合条件(ターゲットと非注意刺激が同一の色名を表す)および不適合条件(両者が異なる色名を表す)が設けられた.不適合条件の反応時間が適合条件の反応時間と比較して遅延する現象はストループ様効果と呼ばれ,非注意刺激の意味的処理の証拠とされてきた. ターゲットと非注意刺激の間の空間的距離(非注意刺激の距離)を,0.5°,1°,3°,5°に操作した実験の結果,0.5°および1°条件においては,顕著なストループ様効果が認められ,3°条件においては消失することが明らかにされた.一方,非注意刺激の距離がさらに増加した5°条件においては,適合条件の反応時間が不適合条件の反応時間と比較して有意に遅延することが明らかにされた(負のストループ様効果). また,課題負荷を操作した実験の結果,ターゲットと類似する項目が複数呈示され,同時に処理が要求される刺激の個数が一定数以上増加した場合には,ストループ様効果が消失することが明らかにされた.一方で,ターゲットに近接して反応手がかりを呈示し,反応手がかりが特定の条件を満たす場合にのみ,実際に反応を行うことが許可された状況において,反応手がかりの弁別の難易度が増加した場合には,ストループ様効果は全く減少しなかった. これらの結果から,非注意刺激の意味的処理を排除可能にする実験状況とは,同時に処理が要求される刺激個数が一定数を超えている場合に限られる可能性が示唆された.
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