研究概要 |
昨年度の研究において,軽度アルツハイマー病患者を対象とし,誤り次元(排除-喚起)と符号化次元(知覚的-概念的)を交差させ,全部で4種類の異なる訓練手続きを考案し,その効果を比較検討した。今年度は,この実証的研究成果を踏まえ,訓練対象を健忘症患者に拡大して,誤りと符号化次元が記憶訓練に及ぼす影響を検証した。その結果,アルツハイマー患者と同様に健忘症患者においても,誤り排除-概念的学習が最も優れた訓練効果をもたらすことを証明した。 次に,残存する潜在記憶に働きかける努力喚起型学習として,被験者実演効果に着目し,コルサコフ健忘症患者と健常統制群を対象に,行為の生成と実演を求める課題を新たに開発し,その効果を検証した。実験の結果,行為の実演だけでなくその生成を被験者に課した場合,環境的支援の乏しい自由再生検査で実演と生成は加算的促進効果をもたらした。しかし,環境的支援の豊かな再認検査では,こうした加算的促進は確認できなかった。記憶障害者へのリハビリテーションの手法として,行為記憶への働きかけが有効であることを実証した。 さらに,記憶訓練における努力喚起の有効性は実行機能の障害の度合いに依存するという仮説を提起し,実行機能障害を査定するための実験室的課題を開発した。特にネガティブ・プライミング現象に注目し,健常大学生を対象に4種の異なる課題を実施した。その結果,ネガティブ・プライミングを頑健に生じさせることのできる刺激と実験手続きを確定するとともに,この指標の信頼性と妥当性を明らかにした。実行機能の中でも特に抑制能力を客観的に査定するための手段として,これらの課題が有用であることが示唆された。
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