本研究は3年計画であり、初年度には日米の大学院制度に関する資料・文献等を収集・整理しながら、主として研究者養成型の研究大学におけるカリキュラム構造の特色を明らかにした。初年度に得られた研究成果あるいは知見は以下のとおりである。 (1)日米ともに、大学院の発展の方向は、大学と大学院との明確な機能分化に伴う大学院教育の高度化、多様化であり、大学院教育のカリキュラムはこの高度化や多様化に対応して再編成されてきている。具体的には、学位制度の見直しや新しい学位取得方法の開発が検討され、専攻分野の固定的・閉鎖的性格をなくし、学内外の教育資源を活用しながらカリキュラムの学際化が進められている。 (2)日本の研究大学においては、従来の研究者養成に加えて高度専門職業人養成をめざした専門職大学院構想を視野に入れた改革が指向されているが、学内合意形成や調整作業が難しく、また基礎学術と専門学術のカリキュラムの住み分けに難航している状況にある。 (3)カリキュラムの体系化や段階的・系統的学習のために、米国の大学では、段階ごとの到達目標を明確にするとともに、大学院教育だけでこれを考えるのではなく、学部教育や卒業後の進路との関係を重視している。科目番号制や履修登録制限制などは、そのシステムの一例である。 (4)また、コースワークを重視する大学院教育においては、学生の選択的学習による系統的履修の機会ととともに集中的学習による学習効果の向上を図る工夫がされている。具体的には、GPAや履修アドバイス・システムの採用のほか、サマータイムを含めた学期制の工夫などである。 (5)ハーバード大学やスタンフォード大学をはじめ6つの研究大学のカリキュラム構造をみると、学位取得の過程が高度に体系化され、学習や研究のプロセスを重視しそれを適切に評価するようなシステムとなっている。総合試験制を含む審査プロセスや助言・指導体制など、学位制度の効果的運用は示唆的である。
|