本研究では、フランスにおいて学校評価がどのように議論され、政策として具体化されているかについて政策評価の観点から分析するとともに、学校評価システムの構築の進展状況を明らかにした。その結果得られた知見は以下のとおりである。 1.大学区の政策評価の分析から、フランスの学校評価システムの特徴は<自己評価による学校の自律化の促進>と捉えることができ、その具体的サイクルは各学校が策定する「学校教育計画」によって学校毎に形成される。しかしそれは十分機能せず、その主要因は学校の経営能力の欠如にある。その改善策として、管理職に対して「学校診断」と「任務書」作成の義務付けが導入された。これは大学区当局が行う新たな学校支援の形態であり注目される。 2.2005年に制定された新しい「教育基本法」の制定過程を分析した結果、学校評価は前面に取り上げられていないこと、その理由として、今日の学校教育の質的向上という基本目標に対して学校の自律性を促す学校評価、という政策は有効でないとの認識があったことが明らかとなった。より直接的な子どもへの支援や教員の資質向上が喫緊の課題とされたことにより、学校の経営的側面は政策の主たる対象から外され、質向上のための外部統制的な学校評価の全国的導入にも踏み切らない意向が政府サイドにみられることも解明した。 3.この15年間の学校評価政策と実態を総括した総視学官報告書『フランスにおけるコレージュとリセの評価-批判的検討と展望』の分析から、今後の目指すべき方向としてヨーロッパ委員会(CE)が提唱している「支援付自己評価」がモデルとされていることが判明し、NPM理論に基づく第三者評価ではなく自己評価を中心に据えるフランスの学校評価の独自性が確認できた。
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