本年度は、子どもから成人への移行概念としてのシティズンシップの変容とその思想史的文脈について、研究をすすめた。今年度は主として二つの研究課題を追求した。第一は、アメリカ合衆国における1990年代以降のシティズンシップ教育論の展開を、移行期(トランジッション)概念の変容、およびその思想史的な相克をふまえて、検証し、分析する作業である。第二は、福祉国家概念の再編によるシティズンシップ概念の再編と変容の過程を、リベラリズムとコミュニタリアニズムの相克、「政治的なるもの」の変容とその再編の問題を視野に入れつつ、思想史的に分析する作業である。第一の点については、前年度のミネソタ大学での在外研究をふまえて、その後の理論・実証的な展開を資料集等によってフォローした。第二の点については、教育思想史、政治思想史における内外の研究蓄積をふまえ、新たに資料収集と分析を行った。 以上の成果については、その成果を論文にまとめ、さらに、単著『シティズンシップの教育思想』にまとめた。また、年度末には研究成果をふまえた追跡調査と研究を行うために、ミネソタ大学に海外出張を行い、同大学ハンフリー公共政策研究所のハリー・ボイト教授と、研究打ち合わせを行った。以上の成果にもとづき、今後は戦後日本の思想史文脈とグローバルな思想史文脈の双方をふまえ、トランジッション問題におけるシティズンシップの変容についてさらに研究を行っていく予定である。
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