本年度の研究実績に関しては、特に同僚教員評価制度の先進的な地域の1つと判断されるカリフォルニア州ポーウェイ統合学区を中心に、その具体的取組の状況を詳しく調査、分析した。 その結果、当該学区における同僚教員評価制度は、まず、ポーウェイ統合学区における同僚教員評価制度も、先発の他地域における同種の制度と同様に、制度全体を通した基本理念が「個々の教員の能力開発や支援」で一貫しており、「排除や処遇」を第一義的な狙いとしていない。この点は、同僚教員評価制度の大きな特質の1つである。また、ポーウェイ統合学区の制度は、2段階に区分された初任者研修と一般教員用の高次な研修、さらには指導力不足教員用の研修といった多様なプログラムで構成され、それぞれの職能の程度や段階に対応した総合的支援システムとなっている。先発地域(トレドやコロンバス)の同種の制度には、一般教員用の選択制評価プログラムこそ見受けられなかったが、この点を除けば、新任教員とベテラン教員の双方を対象とするシステムという点も、同制度の特質の1つとしてあげられよう。 ポーウェイ統合学区の場合、制度全体を通して、同僚教員(相談教員)による評価と校長による評価とのバランスがうまくとれている点は特に刮目すべきである。とりわけ終身教員調停プログラムにおいて顕著であるが、複数の人々(評価チーム)による評価を通して評価の客観性や公正さを確保しようとする姿勢が強く看取される点も注目に値しよう。これらの諸点は、先発地域のトレドやコロンバスの制度と比べても優れている点であり、高く評価することができる。また、終身教員調停プログラムにおいては、不幸にも解雇の判断をおこなわなければならない場合においても、独立した第三者による審査など、最大限に慎重な手続きが用意されており、指導力不足教員の権利を最大限配慮した姿勢がうかがえる点も見逃せない。さらに、自発的な参加を前提とした一般教員用の選択制プログラムにおいては、主たる目的が教員の孤立化防止と職能開発の支援を通した学区教育水準の向上ではあるが、個々の教員自身が自らの努力の成果として「相応の評価と処遇」を与えられるとすれば、教員の意欲(「やる気」)を喚起する積極的な評価システムとしての側面も指摘できるのではないだろうか。いずれにせよ、これらの各種プログラムによって構成されるポーウェイ統合学区の同僚教員支援・評価制度は、我が国における今後の教員評価制度を検討する際、極めて示唆的内容に富んだ制度であることは間違いあるまい。
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