教員評価の新しい動向として「同僚の手による教員評価」(以下、同僚教員評価という)の動きが指摘できるが、同僚教員評価自体は1980年代からすでに一部の地域で実施されてきており、それ自体そう目新しいわけではない。しかしながら、つい最近、全米的な教員団体(組合)であるNEA(全米教育協会)やAFT(アメリカ教員連合)が同僚教員評価に対しそれまでの懐疑的な姿勢を転換し、その導入支持の立場を表明したこと、さらには先進的な事例地域にとどまらず、他州においてもその導入検討のための動きが顕在化していることもあって、現在大変注目されている。 先進的な事例学区であるオハイオ州トレドの場合をみてみると、まず同僚教員評価の管理機関として9名からなる「評価委員会」(the Board of Review)が設置され、構成メンバー中5名はトレド教員連合(AFTの地方支部:学区内教員の大半がその構成員)から、残り4名(学区事務局担当者)は学区からそれぞれ任命されている。同委員会の任務は、同僚教員評価の実務を担う「相談教員」(consulting teacher)を選定し、その業務内容を監視するとともに、新任教員の雇用継続の是非及び問題とされるテニュア教員への処遇を学区教育長へ勧告することである。学区教育長は、同委員会の勧告内容を受けて自らの案を教育委員会へ提出するわけであるが、これまで1人の教育長も同委員会の勧告を拒否していないという。 学区と教員組合の共同・連携を通して評価の客観性向上や被評価者の能力開発・支援をめざす同僚教員評価の基本理念は、我が国教員評価制度の改革を検討する上でも大いに示唆的内容に富むといえよう。しかしながら、他面、教員組合主導で導入されたこの制度の経緯もあってか、組合色の強い地域でしかその展開がみられないこと、相談教員自身は評価対象とならないためにその評価結果に対して責任を取る体制がないこと、さらには、「費用対効果」の観点からみた場合相談教員の手当が割高との指摘があることなど、現実には改善・解決されるべき課題も数多く残されているようである。
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