1.政府の人権教育政策と人権教育概念の分析 地域改善対策協議会「同和問題の早期解決に向けた今後の方策の基本的な在り方について(意見具申)」(1996年)において提起された人権教育とその後の政府の人権教育政策の分析を行った。ここでは、人権教育が「人権尊重の精神の涵養を目的とする教育」に限定され、「権利としての教育」の観点からの規定が希薄であることを明らかにした。 2.地方自治体(府県段階)における人権教育理解 政府関係機関によって提起された人権教育は、地方自治体にはたしてどのように受容されたのか、1997年度の府県教育委員会の対応を中心に分析した。当時、人権教育に対応した府県教育委員会は限られていたが、同和教育は人権教育の前提(滋賀県)、同和教育は人権教育の重要な柱(和歌山県)、同和教育は人権教育の中核(長崎県)といった位置づけが行われるなど、同和教育を中心とした人権教育理解がほとんどであった。人権教育概念の日本的色彩ともいうべき特徴である。 3.地方自治体(市町村段階)における人権教育理解 滋賀県下の市町村における人権教育理解の実態を分析した。同和教育に対する地域の実践の相違に規定されて、市町村はほぼ次の三つに類型化される。ア.人権教育の提起にもかかわらず、従来型の同和教育が中心になっているところ、イ.人権教育に転換しつつも、同和問題の教育・啓発が重点になっているところ、ウ.人権教育の提起以前から同和問題の重点的な扱いを克服し、人権教育を多様にとらえているところ。特に、ウの特徴を持つ自治体(大津市・日野町)に注目し、実践の経過と成果の分析をすすめた。
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