1.研究の初年度としてはまず、フランスの生徒指導専門員(CPE)の成立の経緯とその法的地位について、歴史的文献踏査と法令における変遷を調査した。生徒指導専門員の制度と身分の確立は1970年のことであるが、それ以前のフランス中等教育の歴史と密接な関わりをもち、1847年の寄宿制学校における生徒監(SG)の成立以後に、実に多様な変化を遂げてきたことが明らかとなった。 2.フランス現地調査では、生徒指導専門員の養成にあたるパリ大学区教師教育部(IUFM)、および最も代表的な教職員組合のSNESの担当者との間でのレビューを受けた。生徒指導専門員がここ10年間の間に急速に、その存在意義を高めていること、人気のある職種であり希望者も多く、また教科指導以外の学校生活の側面での援助をおこなう専門職意識の高い存在であると言われている。この職種にもっとも必要な資質と能力は、人間に対する尊厳と、生徒を取り巻く環境への社会科学的な洞察力と青年心理学に関する深い知識であるとされる。 3.校内暴力だけでなく不登校(absenteisme)や怠学が、深刻の度を増してきているフランス学校教育において、生徒指導専門員は、教育病理問題解決の結節点に位置し、同時に生徒に市民性教育を実施する担い手であり要としての役割を果たしている。この動向は逆に、従来から主知主義の現れとして教科指導しか担当しなかった教員の職務内容と意識にも影響を与え始め、共同での取り組みや連携が生まれ始めている。他方で、身分と待遇は教員と同等になったものの、教員文化の意識の高さから、依然として生徒指導専門員を一段低い職務内容とみる傾向も残存している。
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