今年度は、本科研の第二年目にあたる。今年度刊行したのは、近代家族における家庭教育についての、理論的問題、および現代的課題を整理した著作(木村涼子との共著)『教育/家族をジェンダーで語れば』(白澤社)と、翻訳に参加したモッセの『男のイメージ』(作品社)である。 前書では、特に、近代的母に課せられた役割とそのアポリアをあきらかにすることを中心的課題としながら、6本の小論と1本の論文を執筆した。翻訳書は、母/女性ではなく、男性の問題をジェンダーの視点から分析するために非常に学ぶところの多いものであった。モッセの男性論は、近代教育がいかに近代の男性性を形成するのに大きな役割を果たしたのかについて、非常に示唆に富むものである。本年度は、この二つの刊行書によって近代家族における子育てに関する理論的な枠組みに関する議論をすることができたと考えている。 現在、ヴァイマル憲法についての論文をまとめる作業を進めつつある。これまで、社会史分析を主軸においた研究をすすめてきたが、今年度は、ヴァイマル憲法の成立史における家族の位置づけが、重要であることをあらためて痛感した。というのも、ヴァイマル以前のビスマルク憲法においては、憲法上の家族の位置づけは極めてささやかなもので、また、ヴァイマル憲法においても、当初のプロイス案段階においては、家族は重視されていなかった。しかしながら、最終的に、子どもがたくさんいる家族、という限定的な家族がことさら明記され注目されることになる。なぜ、このような特殊な家族がヴァイマル憲法において位置づけられたのか。この点をあきらかにすることによって、1920年代における家族の法制史上の位置づけをあきらかにすることができる。 この法制史的分析とならんで、社会史研究を合わせることによって、近代家族の家庭教育における、母というもの、そして父というもの問題があきらかになると考えている。
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