平成15年度から平成17年度まで3カ年間の研究計画の最終年度に当たる本年は、学校プログラム政策(「学校の自律化」政策)と「教育の機会均等」原則の関係について、一定の理解を得るための理論的分析を主な課題とした。本研究課題に関わって2編の研究論文を執筆した(うち1編は2006年3月時点で初稿終了、未公刊=近刊予定)。 本年度明らかにしてきたのは次のような点である。第一に、学校プログラム政策と「教育の機会均等」との関係は、両義的であり得る。学校が独自の「個性」を追求することによって、一方で学校による生徒の選別性が高まることがあり得る。しかし一方で、学校種の枠にとらわれないカリキュラムを提供することで分岐型学校制度の硬直性を緩和することもあり得る。第二に、OECDによるPISA調査は「学校の自律化」を進める学校プログラム政策に対しても強い影響を与えそいる。PISA調査におけるドイツの低成績は、統一的な学力スタンダードの設定などを通じてそれまで「現場主義」的だったドイツの学校教育を標準化する動因となっている。第三に、低学力の構造的要因として、ドイツの分岐型中等学校制度が改めて問題になっている。1970年代までの総合制学校論議とは違った文脈で、中等学校制度の単一化が議論され始めている。こうした教育政策論議の検討を通して特に注目されるのは、「機会均等」のような制度的概念が、獲得されるべき能力や知識についての概念や学習のあり方についての概念(学習観)と結びついて論じられなければならないということである。 3ヶ年間の研究によって、おおむねドイツ各州の政策動向をおさえた上で教育制度改革の論点を考察することができた。複線型への移行を模索していると見える日本の教育制度改革を吟味する上でも興味深い素材として、今後も継続して研究を進めていきたい。
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