本研究は、近年ドイツで進められている「学校プログラム」政策が中等教育制度をめぐる最大の論点である分岐型制度の存否をめぐる問題とどのように関わり、またその中で「機会均等」の原則がどのような新しい意義を与えられているかを明らかにしようとするものであった。 第一年度及び第二年度においては、学校の自律性を高める施策としての「学校プログラム」政策の具体的な論点を教育課程、人事、財務の三つの観点から整理する作業を進めた。またPISA調査によって改めて明らかになったドイツの分岐型中等教育制度の構造的問題点と学校の自律化との関連についての議論を検討した。特に、「機会均等」の意味及び中等学校制度のあり方についての政治的・教育学的議論の中では、歴史的前提としての1960-70年代の同種の議論の昂揚と退潮をふまえた、新しい論点と論証が求められていることを示した。 最終年度に当たる第三年度においては、特に「学校プログラム」政策と「機会均等」原則の両義的な関係性についての理論的分析を進めた。特に、分岐型の中等学校制度は国際的水準に比した場合のドイツの低学力を生み出す構造的要因と見られること、単線型の学校制度においては「機会均等」のような制度的概念が獲得されるべき能力や知識、学習のあり方についての概念(学習観)と結びついて論じられなければならないこと、を指摘した。ドイツではこうした観点からの具体的な学校制度改革の提案も生まれてきている。そうした動向から吸収するべき理論的観点は少なくない。 3カ年間の研究によって、おおむねドイツ各州の政策動向をおさえた上で教育制度改革の論点を考察することができた。複線型への移行を模索していると見える日本の教育制度改革を吟味する上でもドイツの事例は興味深く、今後も継続して研究を進めていきたい。
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