本研究は、2000年秋以降、福島県三春町を嚆矢としてこれまて全国の15市町村で試みられてきた、いわゆる教育長公募制の趣旨と仕組み、制度運用の実際などを調査・分析するとともに、この制度の導入・実施が教育長および教育委員会の在り方、さらには教育委員会の活性化にどのようなインパクトをもたらしているのかを実証的に明らかにすることを目的にしている。 具体的には、教育長公募制を実施した市町村に赴き、予め準備した質問事項に基づいた当該首長および当該「公募」教育長(以下、公募教育長という)等へのインタビュー方式の聴き取り調査と関連資料の収集分析等により、この制度導入の背景と趣旨、制度の詳細と特徴、応募状況や審査過程など制度運用の実際、公募教育長の特徴(年齢・経歴、応募動機・抱負、教育長職・教育委員会制度に対する認識、当該地域の教育と教育行政への課題意識など)、就任後の重点施策・活動、教育委員会の活性化への影響などを明らかにすることを通して、この制度の意味と意義を考察することを企図したものである。 15市町村のうち、実際に訪問し、首長、公募教育長等から聴き取り調査(インタビュー)を行った市町村は、9自治体である(うち2自治体は首長のみ)。他の6自治体に関しては、公募要項などの基本資料(本報告書の資料編に収録)はほぼ収集済みであるが、具体的な聴き取り調査の実施は今後の課題となっている。上記のように今回の調査研究では、首長と公募教育長以外の自治体関係者一議会(議員)や教育委員、住民や学校などの関係者からの聴き取り調査は実施されていない。この制度に対する総合的な分析・評価を行うには、こうした関係者からの聴き取り調査が不可欠である。本調査研究はそのための基礎的な作業にとどまっている部分も少なくなく、本報告書はなお中間報告的なものである。 とはいえ、今回の調査研究によって、当初の研究目的に掲げた課題のいくつかを明らかにできた。すなわち、第一に、はじめて教育長公募制の制度的全容がほぼ明らかにてきたこと、第二に、15市町村の公募制の共通点とともに自治体ごとの創意工夫や多様性が明らかにできたこと、第三に、公募制の制度的内容と特徴のみでなく、制度の運用実態がそれなりに明らかにできたこと、第四に、教育長公募制の意義と問題点(一部の"挫折"事例を含めて)が明らかになり、その課題を提示できたことである。
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