研究概要 |
本研究では,フィリピンの公教育における宗教の役割について実証的なデータを収集するとともに,日本における宗教教育についての実態調査を蓄積し,比較検討することで文教政策にとっても有益となる示唆を得ることを試みている。 本年度は2年目であるが,フィリピンについては,昨年3月に続き,2004年8月15日〜24日に渡航調査を行った。教育省などで文献資料を収集するともに,いずれもカトリック系のアテネオ・デ・マニラ大学(ケソン市)およびデ・ラ・サール学院ゾベル校(ムンティンルパ市)を訪問し,聞き取り調査を行った。帰国後,収集資料および調査結果の分析を行った。これまでの作業では,主に現行の小学校教科書の分析を行った。その結果,「社会科」などで強調される価値観のなかにキリスト教に基づくとみられる内容が確認されただけでなく,「理科」においても,「世界の創造者としての神」「命の源としての神」といった考え方が記述の根底にみられた。エコロジー問題への言及においても,「神の被造物への責任」という考え方に依拠しており,注目される。 一方,日本の宗教教育に関しては,公立学校にない豊かな実践の蓄積がある宗教系私立学校に注目してきた。研究代表者の所属する立教大学キリスト教教育研究所が先に実施したキリスト教学校調査のデータを参照し,これに新たな視点からの分析を加えようと試みている。元のデータは,全国の中等教育段階のキリスト教学校に対する郵便方式調査であるが,異文化理解と重なる部分の多い平和教育におけるキリスト教学校の実践の特徴を,データのクロス集計を用いて調べてみた。これまでの集計の結果,学校規模や地域性,別学と共学などによる傾向の存在が確認された。 次年度はさらに分析を進め,フィリピン・日本の双方で,「平和」「異文化」に関する教育における宗教の役割について,全体像を明らかにするとともに,両者の比較分析を行う予定である。
|