本研究では、フィリピンの公教育における宗教の役割について、実証的なデータを収集するとともに、日本における宗教教育についての実態調査を蓄積し、比較検討することで、文教政策にとっても有益となる示唆を得ることを試みている。 本研究により、現在までに得られた知見は以下のとおりである。 1.任意選択の「宗教」科目の公教育における拡充の歴史的過程では、カトリック教会の役割の突出、教育政策への過度のコミットや他宗派(プロテスタント教会やイスラーム)との対立などが異文化理解への課題とみられること。 2.カトリック教会の公教育へのコミットは教育政策にとどまらず、教員派遣、カリキュラム作成等多岐に渡り、カトリック系大学や各地方教会など、教会内の諸セクターがこれに参加し、今日に至ること。 3.正科の「社会科」「理科」の教科書で強調される価値観にも、キリスト教の思想が記述の根底にみられ、国民統合や道徳への貢献が期待されていると思われること。 4.宗教系の私立学校のなかには「名門私立」として「世俗」科目を重視する学校がある一方、地域によっては当該地域社会の価値観の主要な基盤となっている学校もあること。
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