研究1年目は1930年代の異人種間交流論の特徴を知る手がかりとなるものを複写し、収集することに主眼を置いた。ハワイ大学図書館、国会図書館、外交史料館所蔵の関連資料を収集し、現在分析中である。現時点で明らかになりつつあることのひとつは、当該年代にハワイアン・ボードが支援し、奥村多喜衛が実行した「チェーン・スクール」が日系二世生徒に及ぼした影響の大きさである。チェーン・スクールは、日系生徒が日本語学校に通わずとも日本の言語・文化・道徳が学習できるようにするために開発したプログラムである。一般的に、日系生徒はそれぞれ独自な文化的価値観を教える公立学校と日本語学校の両方に通っていたため(ダブル・スクーリング)、アイデンティティ・ディレンマを抱え込むことが多かった。チェーン・スクールは公立学校の密にリンクしたプログラムとして企画されたため、そういったディレンマを経ずに、両方の文化的価値観を融合することができた。日本語学校に通っている生徒よりも、より容易に民主主義の価値観を親の考えと合体できたのである。従来の研究では、チェーン・スクールは日系生徒が親から受けるポジティブな影響を切断し、ホスト文化に同化させるためのものであるとするものであった。しかし、そのような評価は極めて一面的なものであることが明らかになった。 むしろ、チェーン・スクールも、日系生徒の「民主化」教育に寄与していた可能性が出てきたのである。この研究結果については、本年秋の教育史学会で発表し、2005年3月までに論文として公表する予定である。
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