平成15年度は、19世紀との比較で、現代フランスにおける新自由主義と教育の問題を取り上げ、論文にまとめた。また、日本の新自由主義的教育改革の焦点ともいえる、教育基本法改正問題も視野に入れ、日仏の比較という観点から研究に取り組んだ。さらに、フランスでの資料収集、ヒヤリングも含めて多面的な研究をおこなった。 フランスでも、日本と同様に新自由主義的改革が展開されている。しかし、日本との比較という観点から、単純な評価、判断はできない。フランスの58年憲法34条では、教育の基本原則は、法律事項とされている。しかし同時に、憲法38条は授権法律(loi d'habilitation)によって、政府のオルドナンスによる立法委任を定めている。フランス政府は、「1999年12月16日の法律第99-1071号」によって授権委任され、「2000年6月15日のオルドナンス第2000-549号」によって、教育法典を公にしている。いわば、新しい教育基本法である。教育法典(教育基本法)は、全体が内容によって、4部(partie)、9編(livre)にまとめて整理されている。そこでは、伝統的に憲法的原理として承認されてきた、ライシテや「教育の自由」も条文として含まれており、教育基本法典としての性格をもつ内容となっている。しかし、複雑な教育法典の体系を統一整理したという性格が強く、日本で焦点となっているような、根本原理の変更を意図した教育基本法「改正」ではない。また、競争秩序の教育、エリート主義教育という視点から見れば、フランスは、以前から日本より著しいエリート主義的教育制度になっており、新自由主義教育改革の動向も、単純な指標で日本と比較できるものではない、ということを明らかにした
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