本年度は、メキシコにおいて、20世紀半ばの首都圏の学校教育に関する史料の調査・蒐集をおこなった。とりわけ、メキシコ教育省歴史文書館に保存されている連邦区(首都)担当部局の史料を中心に調査をおこない、教育省側の公文書および住民による請願書・陳情書などの貴重な一次史料を入手した。住民の請願書・陳情書の多くは、学校にかかわる施設の充実や不足している備品の請求、子どもたちを取り巻く環境の改善、教師の派遣や交代の要請などに関するものであった。こうした史料から、住民が子どもたちの教育の質を高めるために、よりよい教育環境とより優秀な教師を求めて、教育省に対して積極的な働きかけをおこなっている姿が浮かび上がってきた。一方、教育省側は、住民のさまざまな要求にできる限り応えるべく努力してきた。しかしながら、両者はつねに一致・協力の関係にあったわけではなく、学校の設置や運営にかかわって資金や労働力を提供して積極的に協力しようとする住民と、学校を支配下におこうとする教育省とのあいだには、「学校」をどちらが管理するかをめぐってさまざまなかけひきがおこなわれてきた。本研究では、住民と教育省の両者が残した史料から、「学校」が国家による国民の支配、管理、統制の場となっているだけはなく、住民の強力な主導権のもとで、子どもたちへの教育の質の向上や地域の利益を追求する場ともなっていることが明らかとなった。この研究成果は、これまで農村教育を中心に進めてきた学校をめぐる住民と国家の関係を探る研究とあわせて、所属機関の紀要に発表した。
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