昨年度に引き続き本年度も、メキシコ教育省歴史文書館を中心に、20世紀前半の学校教育に関する史料の調査・蒐集をおこない、教育省側の公文書および住民による請願書・陳情書などの貴重な一次史料を入手した。本年度は、都市部の教育状況と、これまで研究を続けてきた農村部の教育状況とを比較する計画であったため、メキシコ・シティに設置された学校の史料を中心に調査した。都市部の学校は、すでに建設されている大きな建物の一角を教室とする場合が多く、部屋の賃貸に関わる文書が多く残されていた。農村部では、住民の協力によって教室を建設することが多く、学校に対する住民の思いは、都市部と農村部では異なるのではないかと推測される。また、農村部の学校とは異なり、運動場や作業場などの場所が制限されるため、授業内容も異なっていたと考えられる。さらに、近隣の商業施設の状況などに言及した文書からは、農村部にはない都市部に独自の問題があったことがうかがえる。こうした都市部と農村部の違いについては、入手した史料だけでは不十分であり、とりわけ、都市部と農村部における住民の教育要求に関しては、はっきりとした違いが見られなかったことから、今後も資料の調査・蒐集および検討を続けたい。 これまでの研究成果の一部は、所属学会であるラテンアメリカ学会第25回定期大会において口頭報告(タイトル「学校の普及と先住民の教育要求-20世紀前半のメキシコの事例から」)した。さらに、国家と共同体のはざまにあって住民の教育要求にもっとも影響を受ける教師に関する論文を作成し、それを来年度に出版する予定となっている。また、日本においてはメキシコ教育史に関する史料の蓄積がほとんどないことから、メキシコにおける学校教育に関わるデータの整理、および、これまで蒐集した住民の請願書の一部を翻訳する作業を継続している。
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