国際教育協力が各国の教育制度の中で果たす役割に関しては、それぞれの国の教育発展の歴史と現状を捉えて、歴史的社会的視点から分析する必要がある。その観点から、60年代から様々な国際協力との関係を持ち、現在大規模な改革が行われつつあるブラジルの、教育制度の発展と教育協力との関連を分析していくことを中心にすることにした。 現地調査(2003年9月1日から同月22日まで)において収集した資料を分析し、インタビュー等からの情報を整理した結果、ブラジルの初等教育は現在「地方分権化」の大きな流れの中にあり、それを促進する財政的改革(初等教育振興基金(FUNDEF)が中心である)と同時に、学校組織そのものを強化し学校運営を改革する動きが模索されていることが明らかになった。国際協力に関しては、特に世界銀行による北東部の初等学校の強化プロジェクトは上記の動きに沿ったものであり、同時に学校運営に関して一つの新たなアプローチを提唱していることがわかってきた。 初等学校段階の生徒数は、1990年代はじめには州立学校が市立学校を大きく上回っていたが、市立学校が在籍数を伸ばし、2000年には逆転するに至っている(市立化municipalizacao)。規模や質に関して多様である市立学校は学校運営の強化を余儀なくされているが、その方法として、学校評議会等を通じての学校運営の民主化を目指し様々な人々の参加を重視する「政治的教育プロジェクト」の流れに対し、世界銀行のプロジェクトなどによる「スクールマネージメント」の合理化というアプローチが現れてきている。両者は目標は共通でも、そのプロセスは異なっている。 初等学校を市立化し成功を収めているイタペビ市の例では、教員勤務体制の合理化と管理、それと同時に学校個々のイニシアチブが活性化に結びついている。しかし、それは住民を巻き込んでの学校運営には至っておらず、市政府と学校中心の動きである。ブラジルにおける「学校運営の民主化」がどのような形態を取っていくのか、今後が注目される。
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