世界的に見ると、1990年のジョムティエンでの目標設定にもかかわらず、2000年においても世界に11人もの未就学児童、8借入もの成人非識学者が数えられる。ラテンアメリカにおいては、80年代、90年代を通じて初等教育は増加を続け、80年代には就学前教育が、90年代には中等教育が生徒数の増大を見せた。この間、地方分権化、評価システムの形成、住民の教育参加を中心に様々な教育改革が進められている。 それに伴い国際教育協力は活発化している。世界銀行では1990-2004年にかけての教育融資は世界の地域に比して最大であった。米州開発銀行も89年以前までの融資総額の3倍超を記録した。USAIDや日本も独自の協力を行っている。協カプロジェクトは数が増加すると同時に種類や範囲が多様化し、アプローチも複雑化しいる。就学機会拡大のほか、学校運営の改革にも協力が行われている。また援助機関と対象国の間での対話も増えており、ブラジルの場合はそこからヒントを得ながら自国で考案された財政制度改革を実施した。 ブラジルの初等教育は90年代に5大地域のいずれでも純就学率が90%を超え、大きく進歩した。その重要な背景は、初等教育の地方分権化である。ブラジルでは、初等教育を州から市に移管する「初等教育の市営化」が1980年代に部分的に試行され、1990年代後半に大きく進み、2000年、初等段階では市立学校者数が州立学校在籍者数を超えた。 本研究ではブラジルの初等教育改革の構造と方向性を分析し、その目的が初等教育の普遍化と質の向上であり、その理念に民主化と分権化を有していること、そのため市営化と学校の自律性強化の方向が打ち出されたと見る。事例としてサンパウロ州を取り上げ、地方分権化はFUNDEF、市営化、学校運営の民主化という方面から進めらていること、この動きが1980年代から開始された学校給食の市移管等を端緒に、1990年代後半に「州-市パートナー化計画」とFUNDEFによって加速化されたことを明らかにした。また、市営化か住民のニーズ対応に優れている反面、市の政治的動向との接近が起こり、住民社会の民主化が重要であることを指摘した。
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