本研究の目的は、視覚美術に対する美的感受性の発達の特徴の解明を進め、さらにその発達的知見から学習の適時性に注目して、美術鑑賞におけるさまざまなスキルを習得する教育ソフトウェアを開発し、その有用性と課題を検証することである。本年度は研究の第一段階として、以下の点について検討を進めた。 第一は、美的感受性に関するParsonsの発達段階モデル(1987)の指標に、新たにレパートリーの視点を加えてその発達モデルの具体的構造を考案し、その妥当性を検証した。(『美術教育学』25号、印刷中)特にレパートリーの学年別出現率において、表現性と造形要素に関わるレパートリーが、全学年を通しての頻出レパートリーであることを明確化し、さらに、個人の事例分析において、スタイルの連想以外のすべてのレパートリーを確認した。また、学年の変化にともない鑑賞レパートリーの使い方に変化があることを明らかにし、発達モデルの妥当性を示した。 第二は、レパートリーの視点を加えた発達モデルに基づいて、美術鑑賞を支援するマルチメディア教材「アート・リポーター」を開発し、パイロット的にその効果と課題を検討した。(「宇都宮大学教育学部研究紀要』54号、2004)その結果、批評文の作成を支援する過程で、美術鑑賞のレパートリーが、見方のヒントとして学習者の意識を高め、効果が認められた。特に、批評文が鑑賞学習の成果として具体化したことや、アートゲームが学習意欲の向上と見方の深化支援として機能した点が特筆される。今後は、ソフトの内容の充実、つまり、鑑賞する絵画の種類の充実を図る必要がある。具体的には、今回は鑑賞する絵画が1点のみであったが、内容の充実によって選択の幅を増やすことや、対象学年の拡充により、小学生バージョン、中学生バージョンといった細分化も必要である。一方、その学習プロセスとその関連資料を整えるには、膨大な労力が求められるという課題も抱えている。
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