研究概要 |
1.平成15年度の研究目的 本年度は,3ヵ年の策定計画の初年度に当たり,2年後の鑑賞実践プログラム構築の条件整備として,学校と美術館の次の2点の解明を目的とした。(1)小・中学校における美術鑑賞実践の実施状況および傾向とその課題。(2)先進的な内外の美術館や研究センターにおける美術館と学校との連携に関する思想と運営方法。 2.研究により得られた新たな知見 本年度は,前項の目的に基づいて研究を実施し,それにより,以下のような知見を得た。 (1)小・中学校の美術鑑賞実践の成功事例の収集から 図画工作・美術科の授業やギャラリー・トークの観察や収録ビデオの分析から,小学校の4年生くらい以上では,自分の発言の根拠を探すことが徐々に可能になるが,低年齢児童の鑑賞は,直感的にかつ自由にものを見る傾向があり,教師の意図的な方向付けはよい結果を生まないようだ。これは,授業でも京都市内の小学校と美術館とのギャラリー・トークでも同様な傾向が見られた。 また,作品をカード化した「アートゲーム」に何例か遭遇したが,ゲームは,鑑賞の導入期の小学生には向いているが,中学生には意義が薄く,もつと内容に踏み込んだ鑑賞の必要性が認められた。鑑賞に引き込まれる状況には,知的好奇心を刺激する事物の発見がある。 (2)先進的な内外の美術館における学校と美術館の連携思想・組織運営の実際について実地調査から ニューヨーク近代美術館の提供するTeachers Guideは,同館の教育プログラムの重要な成果である。Visual Thinking Curriculumの理念,作品から討論を喚起し,論拠を画面から探してさらに討論のレベルを高め,思考力や批評力,創造性を伸ばす,を継承する。Harvard Project Zeroのカリキュラム評価で妥当性は検証済みだが,我が国への導入は現状では困難。論理的思考の伸びる時期に,次第に発言しなくなる現状を改善することが,わが国で成功させる鍵であり,今後鑑賞実践プログラムを開発する上で取り組んで生きたい。以上のことは,第26回美術科教育学会(広島大学)にて発表した。
|