本研究は教育実践や体験活動を調査することを通して、学校における福祉学習・教育カリキュラムを検討・構想することにあり、得られた知見は次のとおりである。まず、高齢社会への対応として、1990年代末の学習指導要領改訂時に福祉を課題の一つとする「総合的な学習の時間」や高校教科「福祉」が創設され、また学校における福祉学習・教育は体験活動や奉仕学習の強調によって支えられ、広がってきた経緯がある。しかし、高齢者や障害者が感じるような困難の体験(例えば、アイマスク体験や車椅子体験といった疑似的体験)はどの学校段階においても実施されてはいるものの、生徒たちによる発案でもなく、また主体的な活動になりえていない現状がある。重要なのは生徒たちが教師の支援のもと自主的に活動のテーマや計画を設定することであり、このような活動が継続的であることである。報告書ではいくつかの実践事例を検討した。次に、専門教科「福祉」の創毅は高等学校段階における福祉学習・教育に新たな局面をもたらした。福祉系高校の誕生にともなって、介護福祉専門職の養成システムのありようがこれら高校の福祉を含むカリキュラムに大きな影響を及ぼすこととなっている。2004年度から現在まで、研究代表者は京都府立南八幡高校の福祉系コースのカリキュラムアドバイザーとして高校福祉(科)教育のあり方に関与してきた。2007年の社会福祉士及び介護福祉士法の改正にともなってケアワークがいっそう強調されることによって、高校における福祉(科)教育はソーシャルワークの内容は少なくなり、出発点に企図された「中間的機能」も後退を余儀なくされ、変容してきている。
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