研究概要 |
聴覚障害児の手話によるコミュニケーション能力と、日本語の読み書き能力の獲得との関係を分析するため、早期から手話を導入している聾学校で、幼稚部4歳児学級在籍時から小学部3年生まで、毎学期2日間授業場面を観察し、(1)授業場面でのコミュニケーション行動の発達変化を追跡し、(2)書記言語での日本語助詞の獲得との関係を分析した。 1,聴覚障害児では小学部終了段階で助詞が獲得出来ているものは三分の一程度である。手話では動作主と動作の方向、その動作の及ぶ対象が空間的に配置されることにより意味関係が明示されるが、語順から独立して意味を規定する書記言語での助詞との表現方法の乖離は大きく、このことが助詞の獲得を困難にしている。 2,発達の早期から周りの人とのコミュニケーションを成立させることが、意味構造を明確にするためには不可欠である。対象児の一人両親聾の児童の手話が仲間に広がり、ブループ内での手話によるコミュニケーションが豊かになっていることが認められた。しかし、手話を客観的に記述する方法が確定できず、今のところ手話コミュニケーションの変化を数量的に表示出来ない。 3,得られた資料から云えることは、聴覚障害により音韻的解号が出来ていなくても書記言語での助詞の理解と使用の獲得は可能であり、早期から手話を用いる児童にとって、聴力に障害があり、手話を用いていることが、日本語の読み書きの獲得に用いることが出来る意味的、文法的手段を伸ばすことに関して、決して障壁とはならず、むしろ効果的に作用するということである。 4,早期手話導入を日本語の獲得に効果的に結びつけるためには、手話により育てられるスキルと、日本語読み書きに関連する様々なスキルとの関係について、細部にわたる実証的な追跡的検討が必要である。
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