研究概要 |
本年度は,手動式の手持ち型視運動性眼振(OKN)視標を試作し,重度・重複障害児への臨床適用の可能性を実際に検討した。また,重度・重複障害児のOKN視標提示にともなう反応のパターンを分析し,客観的評価のための観点を実践的に検討した。 対象は肢体不自由養護学校の重度・重複障害学級在籍児童・生徒であった。 結果の概要は以下のようにまとめられた。 (1)他の視力評価法では測定困難な対象児童・生徒において,OKN視標によって視反応を観察することにより,刺激に対する明らかな反応を示す者がいた。 (2)OKN視標に対しても明確な視反応(律動的眼振の生起)が見られない対象児童・生徒がいた。VTR分析を行い,視標提示に同起する律動的眼振以外の反応を検討したところ,視反応がないとされた対象児童・生徒においても何らかの反応(提示に伴う視線の回避,姿勢の崩れなど)が観察された。対象児童・生徒の多くにこうした反応が見られ,律動的眼振という一般的な視反応の評価基準で重度・重複傷害児を評価することは適切ではないことが示唆された。 (3)脳機能の疾患との関連では,頭部外傷等の後天性の大脳皮質損傷を基礎疾患とする対象児童・生徒において,評価の困難性が指摘された。 (4)また,PVL(脳室周囲白質軟化症)を基礎疾患とする対象児童・生徒における視覚機能において特徴的な事例が指摘された。この点について,知的機能との関連からの分析が必要と考えられた。 (5)予備調査で行った対象児童・生徒の視覚に関する医学的診断および視力検査の状況においては,診断はないが学校視力検査において測定不能の者が大半を占めており,適切な実態把握が難しいことが示唆された。
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