本研究は、近時裁判例においても大きな問題となっている「継続的な消費者契約」を取り上げ、裁判所による「救済判決」の理論的、実践的可能性について検討をなすものであるが、本年度は、かかる救済判決を原理的に正当化する法原理の中核をなすものとして、契約当事者の「自己決定原理」にちての考察をなし、その一定の成果を公表することができた。 近時、契約当事者の「自己決定」は、法制度の観点からのみ考察される傾向が強く、自己決定概念の矮小化を招いている。しかし本稿は、継続的な消費者契約の多様性に鑑み、医療契約、介護・福祉契約といった従来の契約法学では周縁的にしか取り扱われていない領域をも射程に置いた現代的な自己決定概念を考察することが必要とするものである。 その際、特に当事者と相手方との関わりあいのなかで継続的に契約関係が形成されてくるケースが多いという現代契約の一つの特色に着眼し、当事者と相手方との関わり合いのなかで継続的に形成される自己決定概念というものをより掘り下げて考察しようとした。その際、自己決定をなそうとする本人にとっての自己決定概念の持つ含意だけではなく、自己決定をなそうとする場に居合わせる相手方の観点が現代的な自己決定原理を考察する上でキーとなることを示した。また、そこでは相手方の自己決定「支援」という考え方が重要であることを明らかとし、その具体化としての「支援の技法」というものを法律学においても取り入れなければならないことを提案した。
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