本年度は消費者と事業者の間に継続的に成立する契約関係に関して紛争が生じた場合、それを規律する基本原理は何かという点について、わが国のみならず、諸外国の研究を検討した。その結果、個別解釈論の基礎として、重要な二つの視点、つまり、契約当事者の「厚生」(Welfare)の総計の極大化を志向する「目的論」的契約原理と、他方では、契約当事者の「権利」保護を志向する「権利論」的契約原理とが重要な役割を果たしていることが判明した。本年度はかかる原理の対立状況を単に理論的レベルで論ずるのみならず、実際に問題となりうる契約紛争の類型を取り上げ、具体的制度の中でかかる原理的視点がいかに重要な役割を果たしているかを分析しようとした.その上で、論文「競争秩序と契約法」を公表した。そこでは、独占禁止法違反行為をなしている企業と消費者との間で締結された契約の効力、および損害賠償の範囲を巡る解釈問題につき、上記の二つの視点に基づき、分析を加えた。そこでは、独占禁止法違反行為をなしている企業との間で締結された契約の効力をめぐり、わが国の昨今の民法学説は十分な検討を加えてはいないことを明らかにし、特にそれが主として論じられる公序論をめぐる諸学説においては、いかなる意味で当該契約の効力が否定されるのか、またいかなる意味で損害賠償が肯定されるのかの根拠が不明確であることを明らかにし、これに対して代替案を提示した。この論文は本研究の主題からの一つの派生であり、本格的研究はさらに別稿にて公表する予定である。
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