研究概要 |
高次元射影空間上に階数2のベクトル束がどの程度存在するかは,余次元2の非特異部分多様体は完全交叉であろうという100年来の予想と実質的に同等の問題であり,非常に興味のある問題である.5次元射影空間上で直線束の直和に分解しない階数2のベクトル束は、唯一丹後束のみが知られている。しかし、このベクトル束は基礎体の標数が2という極めて不自然な状況のみで構成が可能である。従って、このベクトル束の局所変形、大域的な挙動すなわちモデュライの計算は専門家の多くが試みたい問題である。そのためには、このベクトル束と自己準同型層などそれに付随するベクトル束のコホモロジーの計算が欠かせない。 そのための基礎として直線束の直和による還元列の計算は過年度に実行したが、これに現れる多項式を整数係数と見なして、この結果を標数0の体上の列と考えられるが、これから構成される連接層はベクトル束に成らず、torsion sheafとなってしまうことが分かっている。この結果は丹後束の一般標数への平坦な変形が存在しないだろう事を示唆している。 丹後束のコホモロジー計算の方法として考えられるのは、次数一定の多項式が作るベクトル空間の間の斉次多項式を掛けることにより定義される線型写像の行列表現の計算である。このアルゴリズムはによるコホモロジー計算はデータ量が多く成りすぎる。今年度は方針を変えて。6次元アフィン空間の原点における局所コホモロジーと5次元射影空間上のコホモロジーとの双対性を利用してコホモロジーの計算を実行した.この結果,丹後束が安定ベクトル束であることが分かり,整数環を(2)で局所化した環上の5次元射影空間上の還元列を想定して,丹後束の一般標数への平坦な変形が存在しないことの証明のめどがついた. これらの結果は,計算,証明を完了させ,近日中に論文として求める予定である.
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