研究概要 |
1.ワイル代数はアルチン的でないネーター単純環であり,付随する次数環は多項式環になる。このような性質の中で,ネーター単純環であることを用いると,ワイル代数上の組成列を持つ加群が巡回加群であることがわかる。この性質に着目し,このような性質を持つ環の特徴付けを試みた。実際,環Rの任意の剰余環が右アルチン的にならないこと;R上の組成列を持つ任意の右加群が巡回加群になること;R上の組成列を持つ任意の左加群が巡回加群になること;ある自然数nが存在し,R上の組成列を持つ任意の右加群がn個以下の元で生成されること;任意の単純右加群の有限個のコピーの直和が巡回加群になること,などが同値になることを示した。また,このような同値条件を満たす環のfinite normalizing extensionが同じ条件をみたすことや,このような条件を満たす環のクラスが森田同値で閉じていることを示した。 2.Kを標数0の体とし,dを多項式環K[x_1,...,X_n]のK-derivationとする。このとき,dは有理函数体K(X_1,...,X_n)のK-derivation Dに一意的に拡張される。2002年にM.AyadとP.Ryckelynckは,もしdの核Ker(d)がn-1個の代数的に独立な多項式を含むならば,Dの核Ker(D)はKer(d)の商体に一致することを照明した。多項式環の代わりに,より一般に,整閉整域Rのderivation dとそれのRの商体Lへの拡張Dを考えるとき,Ker(D)がker(d)の商体に一致するための条件はKer(D)がKer(d)上代数的であることを注意することによって,上で述べたAyadとRyckelynckの定理に簡潔な証明を与えた。 3.G.F.LegerとE.M.LuksがLie代数の研究に導入した写像のtriple system(f,f',f'')を環に導入し,Bresarが導入した一般微分との関係を解明するとともに,全行列環のtriple systemを決定した。これはOsbornによって示された全行列環の微分作用素についての結果を含むものである。 4.岸本が導入したP-ガロア拡大は自己準同型写像にある順序を導入したものであるが,具体的な構造が研究されたものはべき零微分が対応するものだけであった。この論文では基礎体が標数2の場合の4次のP-ガロア拡大について、群およびべき零微分以外の今までに取り扱っていない4次のP-ガロア拡大の基本的構造をすべて決定した。
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