研究概要 |
楕円曲線の判別式は、それ自身自然に第2の楕円曲線を定める。この対応(シャファレヴィチ対応)によれば、同一の判別式をもつ楕円曲線を決定することは、対応する第2の楕円曲線の整数点を決定することと同値である。関数体上の楕円曲線については、前者は与えられた特異ファイバーをもつ楕円曲面の決定する問題に関係している一方、後者の問題は「abc-定理」およびモーデル・ヴェイユ格子の理論を用いて解明できる場合がある。 この観点に立つと、射影直線上の楕円曲面でN個の特異ファイバーをもつものを決定せよ、という有名な問題に対して、見通しのよい方針を提示することができる。とくにN=3,またはN=4のとき、既知の結果に対して、代数的な別証明を与えるとともに、Nが5以上のときの新たな問題点を明らかにする。 また、極大な特異ファイバーをもつ楕円曲面といわゆるDS-トリプルの関係、あるいは極大ハイトをもつ整点とある種の楕円モジュラー曲面の関連、など多くの分野と接点をもつ対象が自然にあらわれ、これらは、さらに広い範囲の数学と豊かな関係をもつことがわかる:実曲面上のグラフやグロタンディクのデッサンとの関連である。この状況はまだ解明されるべき点を残していて、一般の場合は今後の研究課題である。しかし特別な場合には、たとえば極大な特異ファイバーをもつ楕円K3曲面の一意性およびその定義方程式の決定などの精密な結果を得ることが可能である。研究発表(次ページ)の欄の第1、第2の論文(以下[1]、[2]と記す)にて発表。 研究分担者は,主に楕円曲線やアーベル多様体の算術的な性質について研究し、以下の成果を得た。[3]において、有理数体上の楕円曲線のTate-Shafarevich群の3-partの非有界性を示した。これはCasselsにより確認された事実を、楕円曲線の新しい族に対して証明したもので、より一般の場合に対しての展開が期待できる。[4]において、代数曲線のヤコビ多様体の算術的性質の研究として、一般Catalan曲線に対してHodge予想を証明することに成功した。これは、Hodgeサイクルが因子で生成されないがHodge予想が成り立つ新しい例を与える。更に、[5]において、Fermat曲線の合同ゼータ関数への応用を見込んで、ヤコビ和のpurity問題についてのある有限性定理を得た。これはEvertsの問題に対する否定的な解答を与えるものである。 [6]では、代数体上のアーベルL-関数の特殊値に対するGrossとTateの予想を更に精密化した予想を、特別な場合に証明した。これはより大きな枠組みにおいて定式化されている予想を支持する結果になっている。
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