研究概要 |
申請者である上野は,2006年度日本数学会秋季総合分科会の企画特別講演に選ばれ,「多重ゼータ値と多重対数関数」と題する講演を行った,これは申請者が今回の科研費研究「整数論にあらわれる特殊関数の代数解析的研究」において到達した研究成果を体系的に叙述したものであった.1変数KZ方程式の基本解の対称性からDrifeld associatorの双対関係式と6角形関係式が導かれることを示し,さらに,2変数KZ方程式の基本解の分解定理を示し,その基本解の対称性からDrinfeld associatorの5角形関係式が導かれることを示した.また,基本解の分解定理が多重対数関数の調和積を導くことも部分的にではあるが示されている. Drinfeld associatorのみたす4種類の関係式(双対,6角形,5角形,調和積)が多重ゼータ値のすべての関係式を尽くすであろうというのは一つの予想であるが,この予想がもし正しいとすれば,我々の結果は,「KZ方程式の基本解の対称性が多重ゼータ値の代数的性質を規定している」ということに他ならず,それゆえに多重ゼータ値という整数論的な対象物が量子可積分系乃至はD加群の視点から把握されたことを意味するのである. 研究分担者の奥田順一は近大の大野泰生氏・井原健太郎氏及び梶川純氏との共同研究により多重ゼータ値及びその類似で定義されている調和積の構造を一般化し、既存の積構造に関する等式が一般化の場合にも成立することを示した。また、等号付き多重ゼータ値の代数構造も同様の議論が成立し、更にこの二つの代数の間の同型写像を用いて既存の関係式を解釈した。
|