リーマン多様体のホロノミー群はその幾何構造を定める。これらは、ある基本的な仮定の下で7種類に分類されているが、このうち4種類はリッチ曲率が0となり、微分幾何学、複素幾何学、数理物理学等さまざまな側面から研究されている。リッチ平坦な幾何構造のモジュライ空間は、局所的には、周期と呼ばれるその幾何構造を特徴付ける平行な微分形式の表すドラームコホモロジー類でパラメーター付けされることが知られている。したがって、次の段階として、周期に応じて多様体の形がどのように変化するか、ということが問題になる。特に、リッチ平坦な計量がどのように退化してゆくかに興味を持っている。そこで、その局所モデルとなるある非コンパクトリッチ平坦多様体の微分幾何とトポロジーを研究した。 リッチ曲率が0となる4つのホロノミー群のうち、ハイパーケーラー多様体は、ハイパーケーラー商として、シンプレクティック幾何の手法を用いて、多数の例が構成されている。これらの多様体のトポロジーとその上リッチ平坦計量の退化の様子を調べた。ハイパーケーラー商のトポロジーはまだ解明されていない点が多いが、このトポロジーの複雑さは、リッチ平坦計量の退化の複雑さと密接な関係にあることがわかってきた。さらにこの複雑さは、微分幾何以外の他分野でも現れて興味深い現象を引き起こしていることがわかってきた。たとえば、6型のパンルヴェ方程式、幾何学的表現論、4次元ゲージ理論などの研究においても同種の問題が現れ、それぞれの状況においてこれらの問題が我々の立場とは異なった視点から詳細に解析され、理論の重要な部分を形成していることがわかってきた。
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