研究概要 |
結び目理論研究支援ソフトウェアとしてbTdと命名したソフトウェアを製作し、Web(http://amadeus.ics.nara-wu.ac.jp/~ochiai/)上で国内外の研究者に公開した。 bTdは結び目Kのタングル分解をマウス入力で入力すると、それぞれのタングルを基底タングル分解し、その結果からKのHOMFLY多項式を計算するプログラムである。昨年度までにシステムの全体は作成されているが、今年度はタングルの細分という概念を新たに考案し、それをプログラムとして実現することにより、これまで計算不能であった極めて多い交点数をもつ結び目のHOMFLY多項式を計算することが可能となった。これにより、15交点までの結び目の3並行化HOMFLY多項式を計算することも可能であることを実証した。15交点の結び目の3並行化HOMFLY多項式を計算するには約135交点をもつ絡み目のHOMFLY多項式を計算する必要があるが、これまでこのように多くの交点をもつ絡み目のHOMFLY多項式を計算することは、現在世界で公開されているどんなソフトウェアを使用しても不可能であったので、得られた成果はとても有用である。 これらの成果は、昨年大阪で開催された"トポロジーとコンピュ-タ"研究集会で発表された。さらに、本年3月にはトロント大学の村杉邦夫教授、Dror Natan準教授との研究交流においても情報交換し、現システムで採用されているスケイン関係式をMorton教授の提案するJones-Conway多項式も含む形式に拡張することにより、結び目のブレイド指数を決定するシステムへと応用可能であることが判明した。また、本ソフトウェアはDror Natan準教授のホームページで有用なソフトウェアとしてすでに紹介されている。さらに、本ソフトウェアの有用性を考えて使用手順に関するドキュメントを協力して作成することに合意した。 研究成果は、すでに"Base Tangle Decompositions of n-string tangles with 1<m<10"としてアメリカの雑誌Experimental Mathematicsに投稿した。 なお、本ソフトウェアはLinux上での動作以外に、WindowsXP、MacOSX(MacPower, IntelMac版)でも動作するので多くのユーザに使用されることが期待できる。 研究分担者加古富志雄は、本研究計画のHecke環の線形表現をH(q,18)まで求めることに成功し、これを用いて6-ブレイドの3並行化HOMFLY多項式を計算するシステムをK2Kを用いて作成し、15交点の結び目の3並行化HOMFLY多項式を計算することを試みたが、この方式による計算ではほとんど計算不能であることを実証した。しかし、Hecke環の線形表現H(q,18)は数学の関連する分野での応用が大いに期待できるのでこの部分の成果もとても大きなものであると言える。
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