この研究の目的は、結び目の体積予想に代表される、「三次元多様体の幾何構造と量子不変量の関係」を明らかにすることにあります。ここで結び目の体積予想とは、有名なジョーンズ多項式の漸近挙動が結び目の補空間の体積を決定するという予想で、現在多くの研究者が注目しているテーマです。体積予想を解決するための障害として、(1)ジョーンズ多項式を積分表示する方法(2)積分値の極限を鞍点法で評価する方法の正当性が問題となっていましたが、今年度の研究によって、(1)に関しては一般的に解決でき、(2)に関しても、個別の結び目に対して有効な方法を発見しました。この成果は、平成15年6〜7月にエジンバラで行われた研究集会で発表し、ハーバード大学のサーストン氏らと、ツイスト結び目に対する予想の解決可能性などの意見交換を行いました。また東京工業大学の村上斉氏との共同研究として、ジョーンズ多項式の漸近挙動が、結び目の補空間からデーン手術を経由して得られる、三次元多様体の無限族の体積まで決定するという、(3)体積予想の一般化を提案し、8字結び目の場合に厳密な証明を与えました。この成果は、平成15年9月にジュネーブで行われた研究集会で発表し、同様の予想を提案していたハーバード大学のグコフ氏と情報交換を行いました。さらに九州大学の長郷氏と、結び目のジョーンズ多項式の漸化式と補空間のスケイン加群との関係についてセミナーを行い、(4)結び目のA-多項式の非可換化といえる新しい不変量の着想を得ました。この不変量を8字結び目に対して実際に計算し、平成15年10月に東京都立大学で行われた研究集会で発表しました。
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