本研究は特異積分に関する有力な近似計算法であるDE変換公式に関する精度保証付き計算の確立と、これを利用した積分方程式の解の存在および局所一意存在の範囲に対する数値的検証法の開発を目的として行われた。 DE変換公式の精度保証付き計算については、その誤差解析をもとにして、被積分関数を引数とする精度保証付き数値積分ライブラリのための基本技術を構築した。引数として基本関数の合成関数を想定し、端点での特異性に合わせて変換法を選択する方法を取った。誤差評価のためには、被積分関数の定義域を複素平面内の領域に拡大し、そこでの正則性を確認することが必要となる。これには杉浦(名古屋大学(当時))らによるアルゴリズムを用いている。これらの結果については、成果報告書の中で詳細に解説する。 積分方程式の精度保証法の開発のためには、つぎのような手順で研究を進めた。 1.積分方程式を含む関数方手式全般に対する局所一意性の数値的検証法の確立 2.積分方程式に変換可能な常微分方程式系初期値問題に対する新しい精度保証法の開発 3.上記の精度保証法に対するDE変換公式の組み込み まず1では、既存の結果を数学的に整ったかたちで記述しなおした上でこれを発展させ、より適用が容易な形の定理を導いた。これは当該研究のみならず、ひろく精度保証技術の基礎となる可能性をもつ重要な成果であると考えられる。この部分は出版準備中である。つぎに2では、偏微分方程式の境界値問題に対する手法である中尾理論をもとにして、連立1階の常微分方程式系の初期値問題に対する手法を開発した。既存の方法の代表的なものであるLohner法などとは異なり、積分方程式に変換してからこれを扱うものである。これについては16年度末の時点での結果を成果報告書にまとめたが、本研究の範囲にとどまらず、力学系への応用や時間発展方程式の精度保証法への発展などの可能性を含んでいるので、今後の研究課題としたい。3については16年度中に結果を出すことができなかった。しかしながら本質的な困難があるわけではないので、遠からずこれを実現し成果としてまとめることを含めて新たな研究を行いたいと考える。
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