研究概要 |
一般に非圧縮,immiscibleの2流体の数理モデルにおいては,各流体の質量は保存されなければならない.しかしながら,これまでの研究で開発してきた我々の有限要素スキームでは,質量保存性を厳密には有していないことが,いくつかの数値実験の結果から明らかとなった.そこで,2流体問題に対する質量保存型有限要素スキームの開発および数学解析を目的として研究を実施した. 本研究では,2流体問題において質量保存性を保障するために,新たにフラックス汎関数を定義し,それを用いて界面を通過するフラックスの損失なしの制約条件をラグランジュ乗数技法により内包した新たな混合型の変分定式化を提案した.さらに,これに基づく有限要素スキームを開発し,本手法の有効性を検証するために,スロッシングタンク問題等の数値実験を奥村弘氏の研究協力により実施した.その結果,ラグランジュ乗数を用いない従来の方法に比して,本手法の質量保存率が高いことを確認した.なお,本数値実験は今年度購入したハイパフォーマンス・コンピュータHPC-IA642/T2で実施した.さらに,本有限要素スキームの理論解析として,定常問題の近似問題の解の存在と一意性,半離散近似問題の安定性,Navier-Stokes方程式に対する分数段射影法スキームの安定性,純移流方程式に対する半陰的有限要素スキームの収束性等についても研究を実施した. 一方,研究分担者の齋藤宣一氏は,同氏が以前に行った領域分割法の研究の経験が生かし,これまでの研究で曖昧であった2流体問題の全体領域上での厳密な再定式化を行った.さらに,圧力とフラックス汎関数の2つの拘束条件がある場合のStokes方程式に対して,2つの拘束条件を同時にBabuska-Brezzi-Kikuchiの鞍点型変分問題に帰着させる部分について流速と圧力の近似空間が,通常のinf-sup条件と同時にもう一つある条件を満たせばその問題は回避できることを示した.現在,応用上用いられる近似空間ともう一つの条件についての関係を研究中である.
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