研究概要 |
量子場に代表される無限自由度量子系の数学的構造に関わる当研究計画の内容とその成果を要約すると,対称性とその破れおよび熱的性質に基いて量子状態を特徴づけ,「(状態族の)分類空間の幾何構造」の視点からそれらを分類し記述・解釈するための理論的枠組の構成・整備を目指すという初期の目標は,この3年間の研究により大枠で実現されると共に,状態概念に重点を置いた問題設定から大きく踏み出して物理系を記述する代数自体及びそれに働く群作用の決定をも視野に入れ,当初の予想にない射程で問題を論ずる状況となった。具体的に見ると,状態分類は表現の中心環に属する秩序変数だけで指定可能な「セクター」と「セクター内部」という2つのレベルの区別が重要である。前者については破れのない内部対称性に付随したセクター構造を扱うDoplicher-Haag-Robertsのセクター理論が知られていたが,その一般的本質を"selection criterion"の概念およびそれが果たす「方程式」並びに圏論的adjunctionとしての役割に見出し,Galois理論と密接な関連での接合積の機能に着眼することで,破れた対称性や対称性以外の文脈でのセクター概念の扱いとその普遍的記述の枠組を提起した[論文1-4]。そこからセクター内部に踏み込むには,中心環を極大可換部分環に置き換え,群・Kac代数の双対性で重要なKac-竹崎作用素を導入することが本質的で,これにより観測過程の一般的数学的構成が可能になる[論文6]。更に状態の同定に必要な観測データのなす数学的構造の情報から,逆にそれを生成するミクロ量子系の無限次元非可換代数も再構成できることが,接合積に関する竹崎双対定理から分かる。量子場のtype III局所部分環の再現には外部作用で与えられるdynamicsが本質的なこともこの文脈で明らかとなり,観測による動力学の決定までが新たな数学的課題となる(I.Ojima & M.Takeori, in preparation)。
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