本年度は次の3つの研究を行った。 (1)前年度までに明らかにした1次元一般化拡散過程における条件付き分布の漸近的性質に関する結果をさらに拡張し、この結果をBessel過程と出生死滅過程(birth and death processes)に適用した。また、本研究の端緒となった集団遺伝学モデルについては本年度までに得られた諸結果を用いて、複数個の確率的要因(ランダム・ドリフトと環境変動に伴う確率的自然淘汰)を含む拡散モデルにおける条件付き分布の漸近的性質を考察した。そして、これらの結果を総合した論文を作成した。 (2)前年度までに、個体数が確率的に変動する場合の拡散モデル、Wright-Fisherモデル、遺伝子系図学モデルに対して有効個体数を定義し、その性質を明らかにしてきたが、本年度はこれらの有効個体数の相互関係を明らかにした。その結果、突然変異が存在する場合の拡散モデルとWright-Fisherモデルの有効個体数は、突然変異率を無限小とした極限で、遺伝子系図学モデルの有効個体数に収束することが分かった。 (3)2つの遺伝子座において互助的相互作用が自然淘汰に働く分子進化のモデルに関して、前年度までにその基本的性質を明らかにしたが、さらに広範なパラメータ値(とくに、突然変異率が小さい場合)に対してコンピュータ・シミュレーションを行った。また、このモデルの拡散近似(マルコフ連鎖の拡散過程による近似)を導き、平均固定待ち時間(ある境界点への初到達時間の平均)が従う偏微分方程式を得た。この偏微分方程式を解析的に解くことは困難なので、突然変異率と組み換え率が自然淘汰の強度に比べて十分小さいときに、この3次元拡散モデルをさらに近似する1次元拡散モデルを導出した。
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