本研究の目的は、領域の境界の一部分の形状が未知であるとき、その形状を推定する逆問題の考察である。ただし推定のためのデータとして、この領域における熱方程式の初期値・境界値問題の解の部分的データを用いる。本研究の研究代表者(河上)と研究分担者(土谷)は、この目的に関して以下に述べる結果を得た。ただし、証明の一部は未完である。また、日本数学会年会(平成16年3月29日)にて、これらの結果を守山氏と共同で発表する予定である。 1.Bryan-Caudill[BC](Inverse Problems、1998)はノイマン境界条件下で問題を考えたが、Y.Moriyama(守山)[M](金沢大学自然科学研究科修士論文、2002)はより現実的な混合型境界条件下で問題を考えた。本研究でも混合型境界条件を採用しているが、さらに領域をリプシッツ有界領域と区間の直積とし、熱方程式は変数係数とした([BC]、[M]ともに領域は一般次元の直方体で熱方程式は定数係数である)。 2.研究実施計画に従い、[M]における考察を基に、リプシッツ領域上の混合型境界条件をもつ2階放物型方程式の弱解のエネルギー評価を得た。 3.[BC]、[M]も行っているように、問題を変数変換し一つの基準領域で考え、所与の方程式を線型化をするという方針を採用した。ただし、研究実施計画通りそれを全て弱解としての枠組みで統一的に行った。これによりリプシッツ領域の場合を取り扱うことが出来た。線型化はGateaux微分をとることで行い、その際上記のエネルギー評価を用いた。 4.拡散係数を与えるテンソルに条件を追加すれば、データから領域の未知形状を一意的に推定出来ることを示した。 以上の結果を得たが、項目4の証明の一部が未完なのでその完成を急ぎたい。
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