研究概要 |
当研究の目的は,無限階擬微分方程式に対して完全WKB解析の基礎理論を確立し,その応用を研究することであるが,これに関して次のような結果を得た. 完全WKB解析において重要な概念にストークス曲線がある.これは形式解である完全WKB解のボレル和が確定する領域の境界を与えるが,通常は「変わり点」から生じる,ある積分曲線として定まる.しかし高階の方程式に対しては,このようなストークス曲線だけでは不十分であることが知られており,ストークス曲線同士の交差点から,場合により新しいストークス曲線を描き入れる必要がある,この新しいストークス曲線を生じさせる源泉として「仮想変わり点」の概念が導入された.本研究では,考えている高階または無限階微分方程式がパラメータを含むとき,パラメータの変化に応じてストークス曲線が作り出す幾何に注目し,ストークス曲線が,関係する変わり点を横切るような状況を考えると,元々のストークス曲線と新しいストークス曲線の役割が入れ替わることを見いだした.即ち,通常,新しいストークス曲線と呼ばれているものがwell-definedな概念ではなく,いわゆる新しいストークス曲線と通常のストークス曲線の間に実質的区別をすべきではなく,「仮想変わり点」も通常の変わり点と同等の重みを持つことを意味する.これは高次元の完全WKB解析においては特に重要な観点である.この結果を今後の研究に繋げてゆきたい.
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