反応拡散系の特異極限になり得る微分方程式はどれほどあるのか?本研究では特に数理生物学におけるパターン形成等の数理モデルとして提唱されている準線形拡散方程式のいくつかに対して、それらと同じ構造を内包した反応拡散系(半線形拡散方程式系)の有無を探求する。 研究1年目の昨年度に行った基礎的な事実の集積(数理生物学に現れるさまざまな準線形拡散モデルの分類・整理)に基づいて、本年度は「競争系の棲み分け」を記述する準線形拡散モデル(重定・川崎・寺本、1979年)を近似する反応拡散系を新たに構成した。以前にも重定らのモデルを近似する反応拡散系の構成を試みたが、その時は生物現象のモデルとは見なし難い反応拡散系しか構成できなかった。今回は、競争相手の混雑度に応じて拡散係数を転換するような構造を、速い拡散状態にある個体の数密度と遅い拡散状態にある個体の数密度が満たす反応拡散系として定式化できたので、生物現象のモデルとしても十分解釈可能だと思われる。この反応拡散系の特異極限として重定らの準線形拡散モデルを形式的に導出する過程を、仙台および京大・数理研の研究集会にて報告した。目下、研究分担者の協力のもとに関数解析的手法を応用して、この形式的導出の正当化を試みている。一方、この正当化に関連して、時間遅れを伴う競争系の離散モデルである非線形差分方程式に関する懸案の収束問題を研究分担者が解決し、論文として投稿した。 また、本研究を推進するヒントを得るため、反応拡散系およびその周辺分野からパターン形成の数理モデルに造詣の深い研究者を岩手大学に集めて「盛岡応用数学小研究集会」を開催し、その講演録を冊子にまとめた。この冊子は、本研究の基礎資料として役立つのみならず、関連分野の研究者にも有益な情報に十分なり得ると思われるので、150部印刷して全国の関連分野の研究者に広く配布した。
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