研究概要 |
本研究は,擬軌道尾行性(shadowing property)とPesin理論の融合を図ることにより,擬軌道尾行性-C^r-開条件から双曲性(hyperbolicity)を導くことを目的とし,将来的にはC^r-構造安定性予想(r≧2)の解決に寄与しょうというものである.我々の研究目的が達成されれば上記予想解決に大きく貢献できるばかりでなく,ここで得られた成果は,分岐理論・カオス理論にも応用可能と思われる. 平成15年度は,研究対象を閉曲面上の力学系に限り,擬軌道尾行性-C^r-開条件のもとで力学系の双曲性を導くことを主眼とした.本研究を進めていく上で,分岐理論が有効であることが知られている.実際,分岐理論の様々な部分で重要な役割を担っている「中心多様体定理」を応用することにより,擬軌道尾行性-C^r-開条件のもとで力学系のすべての周期点は双曲的であることが,研究代表者自身によって証明されている.周期点の双曲性は,力学系の双曲性を示す上で基礎となる. C^1-構造安定性予想解決のときは,C^1-構造安定性から非遊走集合上の接ベクトル束に占有的分解が存在することを導く段階でFranks補題が本質的であった.しかし,その手法はC^2以上の位相では全く役に立たない.そこで,本研究では力学系のエルゴード理論を応用する.Oseledecの定理により,与えられた(力学系に付随する)エルゴード的不変測度μのサポート上の接ベクトル束においてリャプノフ指数に対応した分解がある.さらに(C^2以上でかつ)リャプノフ指数が(μに関し)いたるところで0でなければ,Pesin理論より,非一様ではあるが双曲性が証明できる.現在,擬軌道尾行性-C^r-開条件のもとで,上記共同研究者と共に鋭意この事実の確認に挑戦している.これが確認されれば,再度,擬軌道尾行性-C^r-開条件を利用し,力学系の双曲性の証明を行っていく予定であるが,現時点では発表に値する結果は得られていない. なお,平成15年9月には,北京大学(中国)数学教室に約2週間滞在し,構造安定性理論の専門家であるWen Lan氏と本研究の目的・研究の進め方について討議を行うと共に,研究代表者自身によって平成14年度まで得られている結果について講演を行った.
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