本研究の目的のひとつは、球面上の分岐被覆を「イソトピック」な意味で分類することであった。1次元力学系の場合にはkneading sequenceというよい不変量を使って分類できることは古くから知られている。これを球面の分岐被覆に拡張する際「標準的な」拡張が定まらないという問題点がある。本研究では、記号力学系からジュリア集合への半共役のすべてを考え、この集合を研究対象とみなすという方針の下に進めていった。新たに得た成果は次のとおりである。 fを劣双曲的有理写像とする。Jでfのジュリア集合を表す。Jの普遍被覆による持ち上げをJ*で表す。Cod(f)でgeometric coding treeによる、Jのcodingの全体を表す。 1.fの逆写像を普遍被覆で持ち上げてできる縮小写像による自己相似集合Kの測度が正ならば、J*はKによるタイル張りが可能である。 2.Coding写像は測度0の集合を除き、n対1写像である。nはcoding treeにより定まる定数。 3.Coding写像の「つぶれ方」は有限有向グラフで記述できる。 4.Cod(f)はtree全体の集合を、ある基本群の部分群の作用で割ったものと同型になっている。また、Cod(f)には、fと可換な有理写像全体のなす半群が自然に作用している。 別の方向の研究として、非自明な対称性を持つフラクタルについて研究した。シェルピンスキー・ガスケットをその境界の3点でふたつ張り合わせた図形は、もとのガスケットが正三角形の対称性を持つのに比して、無限の対称性を持つようになる。この図形は、アポロニウス・パッキングとして古くから知られている。このように、自己相似集合をふたつ張り合わせた図形が非自明な対称性を持つのは、何故か、またこういった図形は他にどうやって構成されるかを調べた。頂点推移性をもつ超グラフから、この図形が構成されることを示し、自己同型群の構造を明らかにした。また、ある場合には、n次元球面のメビウス変換による群で実現できることを示した。
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