本研究の目的は、マウナケア天文台の世界一のシーイングの良さと新たに開発されたグリズム分光装置WFGS-IIの広い写野の強みを活かして、至近距離の分子雲において若い星の候補としてのHα輝線星の探査をほぼ極限の暗さ(褐色わい星レベル)・弱さ(半値幅2-3A)まで行うことである。その観測対象としては、申請書の段階ではL1457(=MBM12)をあげたが、その直後にこれは従来考えられてきたほど近距離(65pc)にはないとする結果が相次いで出されたので、L1642(=MBM20)に交付申請書の段階で変更した。この分子雲は、星形成が確実に起こっているものとしては2番目の近さとされてきたものであるが、これまで若い星の探査が十分にはなされていない。しかしながら、よく研究されているTaurusやρOphiuchus分子雲よりも確かに近距離にあるものの、約100pcなので、当初の狙いに対して魅力が減じてしまったことは否めない。それに加えてWFGS-IIの完成がやや遅れたことのために、計画した2003年秋のマウナケア天文台での観測は実現せず、1年遅れて2004年秋にずれ込むことになった。 この状況をふまえて、今年度はまず、既存のデータを使ってなされたL1457における新しいHα輝線星4星の検出の論文を発表した。いずれも目的とするTタウリ型星と考えられるが、限界等級は十分に深くはない。また、共同研究として、輝線星の探査ではないが、大質量星形成領域とされる2つの天域(W3 MainとNGC7538)において非常に深い限界等級に達する近赤外の測光的研究を行った。その結果は、このような領域でもTタウリ型星と思われる低質量星が非常に多数形成されつつある、というきわめて興味深いものである。さらに今年度に行った観測としては、以前にブライトリム分子雲においてTタウリ型輝線星とともに発見した数個のハービッグ・ハロー天体について速度や励起構造の情報を得るために、アルメニアの2.6m望遠鏡と多瞳分光器による中分散の分光観測を行った。そのデータの1次処理は終わったが、詳しい解析は来年度の作業になる。
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