研究概要 |
超新星爆発の理解には、ハイペロンの発現が期待される高密度から元素生成の起こる低密度に達する様々な温度・密度での核物質の性質を明らかにする必要がある。本研究では、(A)AGS-SPS-RHICエネルギーの重イオン反応、(B)ハイパー核反応データによるハイペロン・ポテンシャルの決定、(C)低密度超新星物質における原子核種分布、(D)新星物質の状態方程式・核種分布テーブルの構築と超新星爆発メカニズム、の4つの個別課題の研究を通じて実験データに基づく超新星爆発のより現実的な記述を可能にすることである。 本年度は個別課題(A),(B),(C)についての研究を次のように進めた。 (A)高エネルギー重イオン反応:広い入射エネルギー(核子当たり1GeVから160GeV)の重イオン衝突データに現れる集団運動流(フロー)が運動量依存性をもつ核子の平均場を導入したハドロン輸送模型(JAM-RQMD/S)で一貫して説明できることを示し、より高いエネルギーでの重イオン反応ではクォーク描像に基づく流体模型とハドロン輸送模型の比較を行った。これらの成果を論文として発表した。 (B)ハイパー核反応:直接反応理論において広い運動学条件にわたる準自由散乱を記述する上で、核内核子のFermi運動量と核内ポテンシャルを考慮した運動学の重要性を指摘し、この枠組を原子核標的のハイペロン生成反応に適用した。Λ,Σ,Ξ核生成について束縛状態と連続状態スペクトルを一貫して理解できることが示されつつある。また、カイラル対称性を取り入れ、現象論的な利用にも耐えうる相対論的平均場模型を開発した。 (C)低密度超新星物質における原子核種分布:昨年度の成果として、標準核物質密度より低い密度における圧力の振舞が超新星爆発に大きな影響を与えることが示唆された。低密度での原子核統計模型と高密度での相対論的平均場模型を組み合わせたテーブル構築を進めつつある。
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