本年度は超対称素粒子模型に基づく宇宙進化シナリオの理解のため、特に宇宙初期のビッグ・バン元素合成に対するグラビティーノの影響(グラビティーノ問題)について研究を行った。特に、これまで完全な形では行われたことのなかった、グラビティーノのハドロンへの崩壊の効果を取り込んで元素合成の計算を行い、その結果としてインフレーション後の宇宙再加熱温度の上限をグラビティーノ質量の関数として求めることに成功した。特に、今回の研究の結果、グラビティーノのハドロンへの崩壊が、元素合成に対して大きな影響を与えることが明らかとなり、これまでになされてきた、ハドロンへの崩壊を無視した計算結果に対して、質的な改善を行うことができた。 また、得られた宇宙再加熱温度の上限は、宇宙のバリオン非対称性生成の機構に対して厳しい制限を与える。特に、近年多くの研究者が興味を持って研究を行っているレプトジェネシスのシナリオは、右巻きニュートリノが熱浴中で生成されるとすると、グラビティーノ問題からの制限の下では十分なバリオン数が作れないことがわかった。本研究においては、宇宙初期のグラビティーノ生成・崩壊からの制限と無矛盾な宇宙のバリオン非対称性生成の機構を考察した。特に、右巻きニュートリノがインフレーションを起こすスカラー場の崩壊から生成される場合、宇宙再加熱温度が比較的低い場合でも観測と矛盾しないバリオン数を生成できることが明らかとなった。
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