近年の実験的・観測的発展を背景に、これまで得られた知見の更なる発展を行った。素粒子論的宇宙論の分野では、標準模型粒子の超対称パートナーの中で最も軽い粒子が左巻きニュートリノの超対称パートナーである場合に着目して、そのシナリオにおける元素合成からの制限を議論した。具体的な手法としては (1)左巻きニュートリノの様々な崩壊モードについての崩壊幅を正確に計算した (2)そこから生成されるパートンのエネルギー分布を求めた (3)パートンのハドロン化を議論し、左巻きニュートリノ崩壊によって生成されるハドロンのスペクトルを求めた (4)それらハドロンが、宇宙初期の元素合成に与える影響を議論した また、ニュートリノ質量がディラック型であるような超対称模型を考え、その枠内で右巻きニュートリノの超対称パートナーが宇宙暗黒物質となる可能性を議論すると共に、どのようなパラメータ領域でそのようなシナリオが実現されるかを明らかにした。具体的には、以下のような場合に右巻きニュートリノの密度パラメータが現在の宇宙の暗黒物質密度と同程度となることがわかった: (1)右巻きスニュートリノと左巻きスニュートリノの質量の縮退が数10パーセント程度以下のとき (2)ニュートリノ質量が縮退型のとき (3)最も軽い超対称標準模型粒子の崩壊で右巻きスニュートリノが多く生成されるとき さらに、超対称粒子の対消滅過程に対するQCD補正の計算を行い、その効果が宇宙の暗黒物質量の計算に与える影響を議論した。その結果、フォーカスポイント超対称模型と呼ばれる模型においては、最も軽い超対称粒子の宇宙残存量が、QCD補正により数10パーセント程度変わりえることがわかった。
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